病気のはなし

アレルギー

食物アレルギー②

最近、食物アレルギーの経皮感作と原因食物の積極的な経口摂取による耐性獲得が言われています。経皮感作とは皮膚経由で抗原(アレルゲン)の情報が体内の免疫を担当する細胞に伝えられ、最終的にその抗原に対する特異的IgE抗体が作られ、アレルギー反応が起こる準備がされることを言います。それに対して、食物が消化管の免疫細胞に情報提示され、特異的IgE抗体が作られるメカニズムを経腸管(消化管)感作と言います。食物アレルギーの原因として経皮感作が重要で、経口摂取した場合は耐性獲得(食物アレルギーが克服される)に働くという仮説が海外から提唱されており、二重抗原暴露仮説と呼ばれています。

食物の経皮感作は確かに存在しており、少し前になりますが「茶のしずく」という石鹸が小麦加水分解物を含んでおり、これを使用した消費者に小麦アレルギーが頻発したことが話題となりました。その後の研究で小麦加水分解物に含まれていた「グルパール19S」が原因であったことが証明されています。経皮感作は確かに存在するのですが、乳幼児の食物アレルギーの成因が全て経皮感作ということには、私は懐疑的です。経皮感作が起こる場合、皮膚のバリア機能の破壊(湿疹がある状態)がまず起こり、そこに食物抗原(アレルゲン)が付着することにより、体内で免疫反応が起こるとされています。しかし、日々診療を行なっていると、母乳栄養で育ったもともと全く湿疹が出ていないお子さんが、離乳食で初めてゆで卵の黄身を食べて蕁麻疹が出る、ということはよく経験します。血液検査をすると卵に対する特異的IgE抗体が上昇しており、臨床症状と合わせて卵アレルギーと診断できます。また、母乳栄養の赤ちゃんと人工栄養(ミルク栄養)の赤ちゃんを比較すると、明らかに母乳栄養の赤ちゃんの方が食物アレルギーの発症が多く認められます。これらは母乳栄養での経腸管感作を示唆する事例です。現状では、経皮感作と経腸管感作の両方の経路があるというのが私の立場です。

除去していた食物の経口摂取に関しては、誘発症状が出現しないのであればもちろん摂取は進めるべきです。ただ二重抗原暴露仮説により、積極的な摂取が進められる風潮となってきていることには、少し心配があります。特に小さいお子さんで明らかに皮膚症状や消化器症状が出現しているにも関わらず食べないと食物アレルギーが治らないからと摂取を進めてさらに強い症状が出現したり、本人が嫌がり全く食べなくなってしまうことを経験しています。現状では当該食物の摂取によりアレルギー症状が出現する場合は、医師が年齢や症状の程度などから総合的に考え摂取を進めるかどうかを判断することが重要であると考えています。

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